大石林山:岩場のソテツ群落・・・その驚異の能力

大石林山

2023年08月19日 13:21

大事にしていた庭のソテツが枯れかかった時、亡き祖母が、突然ソテツの幹に古釘を打ち込んでいたことを思い出した。後になって枯れかかったソテツに古釘を打ち込むと蘇ること、ソテツの語源が「蘇鉄」だということを知った。

ソテツはいつ、どこから来たのだろうか。

原産地は、中国の南部から東南アジアにかけてのようであるが、沖縄の地質時代の地層や遺跡からは花粉化石が出たという報告はない。18世紀初めごろ琉球王国時代に「救荒食」として栽培を奨励されたという記録はあり、どうやらそのころの移入種かも知れない。

大石林山のカルスト山には、数カ所に「箱庭のようなソテツ群落」がある。



大石林山のソテツ群落

「このような岩場にどうして・・・」と思わずにはいられなかった。

ソテツは、亜熱帯地域の常緑樹で太い幹が直立し、葉はかたく幹の先に輪生して、大型の羽状複葉となり、幹の表面は古い葉痕でおおわれている。雌雄は異株で、雌花穂は球形、雄花穂は円柱形である。成長は、年に1~5㌢程度で、年輪はない。

しかし森の中を調査中に、高さ3㍍で、幹の表面に数㌢単位の白っぽい色と褐色の縞模様が互層状になったソテツに出合った。



幹の輪の模様は成長線なのだろうか

この縞模様が成長線なのであろうか。

なお、ソテツの実は、飢饉の時食用にされたが、処理を誤ると中毒し死ぬことがある。因みに、ソテツの精子を発見した池野成一郞博士は、現在NHKテレビで放映中の朝ドラ「らんまん」の植物学者牧野富太郎の学位取得に奔走した同郷の友人のようである。



雌花の卵形の種子


松ぼっくりのような円筒状の雄花

さて、岩山の群落は、恐らくカラスなどの鳥類により運ばれた実がチャンスを活かし芽生えたのであろう。無味乾燥の岩場で育つには、植物特有の能力があるはずだ。

普通の植物は、窒素を含んだ養分を土の中から吸収している。しかし土の少ない岩場のソテツは、根の根粒菌と共生し、その菌(藍藻類)はソテツから栄養分をもらう代わりに、空気中の窒素を吸収し、窒素肥料にかえているようだ。マメ科植物が根粒バクテリアと共生しているのと同じ仕組みである。つまりソテツには「窒素固定能力」があるのだ。

ガッテン!  大石林山の眩しく光輝くソテツ群に新ためてその秘められた能力に驚異を覚えた次第である。



重力をものともしない大石林山のソテツです

(博物館名誉館長 大城逸朗)

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