大石林山:シカ類が群れていたはず・・・化石の発見
前回の「山だより」で、断層について紹介した。その断層の壁面にフローストーン(鍾乳石の一種)とは明らかに異なる茶褐色の付着物があった。
壁面の茶褐色に見えるのが化石を含む付着物
石灰岩地域では、岩の割れ目に土壌や動物の骨などが流れ込み、その一部が壁面に付着して残っていることがよくある。ルーペ(虫メガネ)片手に岩壁にへばり付くと、経験が功を奏し骨片の化石を発見した。見慣れると、容易に見つかるものだ。
中央の白く細長いのは、シカの足の骨化石
直径2.5㌢ほどの円形の断面は、どうやらシカ類の角であることが分かった。さらに眺めることしばし、丸い断面の模様は絶滅動物の「リュウキュウジカ」と判断できた。
ペン先の少し上は、シカの角化石の断面
「リュウキュウジカ」の化石は、他の1種類のシカと共に沖縄県内では100カ所以上の地点から出土している。辺戸岬は化石産地の一つであるが、新たな場所を追加できたことになる。
これまでも化石発掘に関わってきたが、同一の種類が100頭以上もまとまって発掘された例がある。過去の生き物が化石となって残るには、まず生息数が多い事が条件である。
この種類は、数万年前に大陸から琉球列島へ渡来し、今から2~3万年前に絶滅したことが知られている。それからすると、かつての琉球列島には想像を絶するほど多くのシカ類が生息していたことになる。
大石林山の森にも「リュウキュウジカ」が生息していたことが明らかになった。
シカ類を含めた生きものたちの死後の骨は、長い風雨に晒されながらも遂には、石の割れ目や空洞へと流れ込んでいったのだ。
森の中には洞穴が多い。きっと多くの動物の骨の化石が「日の目を見る」ことを待っているはずである。
(博物館名誉館長 大城逸朗)
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